いたずらっこ

 いつも一人で本を読んでいる。目立つことはなく、自分から誰かに話しかけることもない。話しかけられれば、いつもの作り笑顔で 返す。クラスメイトですら、顔と名前が一致しない、空気のような子ども。私は、そんなどこの学校にでもいる子どもだった。
 転校先の学校でも、それは変わることはないと思っていた。都内の小学校から、母の地元にある小学校へ。私から見れば本当に田舎 の、クラスも生徒も少ない学校。でも、そんなことはどうでもよかった。どうせ私は、どこの学校でも空気のように一人で過すのだか ら。
 でも、そうはならなかった。その学校には彼がいたから。
 転校初日、彼は学校中のトイレットペーパーを水で濡らし、朝から校長先生にひどく叱られていた。いわゆるいたずらっこだった彼 のことを、もちろん私以外のみんなが知っていて、私だけが訳も分からずあたふたとしていた。
 彼のいたずらは毎日のように続いた。廊下の窓に油性ペンで落書きをし、校長室の椅子を盗み、雑巾に大きな穴を開けた。みんなは 彼を見て笑ったり、怒ったり、呆れたり。私だけが、そんな様子を横目で見ながらいつも一人で本を読んでいた。
 それはある日の放課後だった。彼と二人で日直だったその日、彼はいつもとは違う真面目な様子で私に言った。
「お前さ、変わってるよな」
「……そう?」
「一人だけ目立ってるし」
「目立ってる? どこが?」
「なんか、仮面付けてるみたいで」
 それが初めての会話だった。今でも、その後の喧嘩はよく覚えている。臆病で、他人と関わるのが怖かった私。そんな私の気持ちを、 いつも能天気なだけの彼に見透かされたようで、私はとても腹が立った。
 次の日、彼は授業をサボり私の手を引いて、校庭にある大きな桜の木に登った。
「ちょっと、怒られるって」
「いいから来いよ」
 強引に上まで登らされ、仕方なく私は彼の隣に座った。
「ほら」
 彼に言われ、私は校舎を見た。校舎の窓から、先生も生徒もみんなが私達を見ていた。色々な顔。驚いていたり、ニヤニヤしていた り、怒っていたり、心配していたり。いつも彼は、いたずらをしながらこの様子を見ていたのだ。その中で私だけがなにもないような 顔をしていれば、確かに仮面を付けているようで目立つだろう。
「笑ったり怒ったり、普通にしてればいいんだよ。みんなと一緒にさ。無理に作った顔してても楽しくないだろ」
「…………うん。そうだね」
 私は小さく頷いた。気持ちを見透かされたのではなく、理解してもらえたことが、純粋に嬉しかった。
 その時、彼の座っていた枝が軋み、数秒後には彼は地面に激突していた。その時のことはよく覚えていない。ただ、木を降りて傍に 駆け寄った時、涙でぐしゃぐしゃの私の顔を見て彼が言った言葉ははっきり覚えている。
「……仮面……外れたな」

「退院いつ?」
「来週の予定」
 病室で、私は右足にギプスをした彼と話している。
「本当に、よく骨折だけで済んだよね。しかも右足だけ」
「その代わり、死にたくなるくらい叱られたけどな」
「あはは、それは私も」
 あれからもう一ヶ月になる。私が転校してきてからだと三ヶ月だ。今では私は空気のような子どもではなく、それどころか大変な立 場にいた。
「早く治してよね。一人だといたずらのネタ考えるの大変なんだから。ほとんどあんたがやっちゃってるし。まさか校長先生の椅子に 接着剤付けるところまでやってるなんて」
「とりあえず、今は松葉杖でも出来るいたずらを考えてるところ」
 そこには、不謹慎なことをとても楽しそうに話し合う二人のいたずらっこがいた。




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